ヘアサロンのお姐さん (後編)
(前編より、つづく。)
で、わたしのボーズは、
そんな感じなんで、そんなとこで。
それよりも。
ボーズにしてくれた
ヘアサロンのお姐さんが
とても
素晴らしかったんです。
ああいう人を、
プロフェッショナル
と言うのだろう。
・
・
・
予約した時間に
院内の ヘアサロンに伺って、
席を案内される。
「明日から、抗がん剤治療なんで、丸刈りにしたいんです」とわたしが言うと、
彼女(推定 40代半ばかな?)は、そのセリフだけで、すべてを理解したようだった。
バリカンの長さ設定などを相談して決めて、
いざ、
バリカンが髪のなかに入っていく。
まず、首の後ろから、両サイドへ。モヒカンのように残った、前方中央を、いちばんさいごに。刈っていく。
作業工程としては、簡単だ。
作業時間としては、短時間だ。
それを、
彼女は、
ていねいに、
ていねいに、
時間をかけて、
刈ってくれた。
途中途中、
わたしの代わりに、
何かを かみしめるかのように、
やさしくほほえみながら、
ていねいに、
心を込めて、
刈り上げてくれた。
すごく、嬉しかった。
すごく、嬉しかった。
すごく、嬉しかった。
彼女は、言った。
「ずいぶん昔、わたしが若い頃はね、医師からの指示で、半強制的に、丸刈りにしなければならない、がん患者さんが沢山いた。一緒に、泣きながら、バリカンを入れていた。刈り上がって、鏡を見せる瞬間は、本当につらかった。でも今はね、患者さんの意思でやれるから、いろんな人がいるわよ。それは、いいことよね。」
にこりと笑いかけてくれた。
・
・
彼女の仕草や、ことばや、仕事の仕方が、
なによりも
やさしさの加減が。
いまのわたしに、
とてもピッタリすぎて、
やさしさが、
からだじゅうに染み渡って、
病室に戻ってから、
わんわん泣いた。
これは、まちがいなく、
嬉し泣きだ。
・
・
病室に戻ってから、
入院生活で仲良くなった隣部屋のお姐さん、E子さんの元へ(彼女は、母くらいの年齢だけど、姉妹みたいに可愛がってもらっている。)
いちばんさいしょに、見せに行った。
「〇〇さーん!見せたいものがあるの!びっくりするかも!でも見てほしい〜!いま出てこられますかぁ?」
とわたしがカーテンごしに叫ぶ。
「え、なになに?やだ、こわいんだけどぉ!笑 やだなぁ。なんだろう〜」
E子さんは、わたしと同じ病気で、左脚を切断している。同病者の大先輩だ。いまは、車いすメインで生活してらっしゃる。
車いすに乗ってカーテンから出てきてくれた E子さん。
わたしが、
「では、いきます!じゃーーん!」と帽子をとって丸刈り頭を見せた。
「えーっ?!いつのまにぃ?!可愛い可愛い!!!クリクリだーっ!」
そして、
「よく頑張ったね、よく頑張った!」
と、はちきれそうな笑顔で、
E子さんは、わたしに叫んだ。
車いすのE子さんのバックには、病室の巨大な窓から、黄金に輝く、夕陽がちょうどさしていて、出来すぎた映画の中に居るみたいだった。
E子さんの目の前で、
このビョーキになってから、
はじめて人前でわんわん泣いた。
嬉しかった。
ボーズにしただけで
こんなに人にやさしくされたり、
こんなに人に褒められたりした。
みんな、ちゃんと、わかってくれてた。
わたしのことを、
わかちあってくれた、
すべての人に、
人生をかけて、
感謝したいと、
心底 思った。
奈良県 三輪山 の鳥居
0コメント